家族で入所利用できる唯一の児童福祉施設として母子生活支援施設があります。
新型コロナウィルス感染症により入所している家族にどのような影響があったのか、ある母子生活支援施設の職員にお話を伺いました。
お話を伺って見えてきたのは、感染症の影響を受けながらも、新しい方法を工夫して生活を維持している利用者や職員のレジリエンスです。
お話を伺った時期は2022年5月でしたが、ウェブサイトへの掲載が遅くなりました。状況が変わったところもありますが、ひとり親家庭の母子の体験や、職員の工夫など、当時の記録として、また今も続く実情として、お読み頂けましたら幸いです。
経済的な影響
新型コロナウィルスがひとり親家庭に経済的な打撃を与えたことは各所で報道されました。
母子生活支援施設に入所している女性の多くはパートやアルバイトで、リモートワークに切り替えられた人はわずかでした。仕事に行かないと給料が得られなくなります。
しかし、ひとり親家庭と言っても状況は様々です。施設からの退所が近づきつつある人は、収入が減ると貯金ができず、地域生活への移行が遅れる不安や焦りを感じます。一方、入所してからの日が浅く、ドメスティックバイオレンスの影響や離婚交渉など心身の負担が大きい人は、仕事に行けない期間に心身を休められてホッとする面もありました。
施設に入所していると職員に相談できます。職員はお金を渡せませんが、関係機関に働き掛けることはできます。経済的な課題は行政機関による支援が重要ですが、感染の広がった時期には関係機関の職員による来所相談も延期されました。代わりに、母子活支援施設職員が利用者に情報提供したり、利用者のニーズを関係機関に伝えたりするなど、職員が間に入って必要な支援を受けられるように支援したそうです。
親子関係への影響
母子生活支援施設では複数の家族が共同で生活しています。感染を広めないためには、外出を控えることや、共用スペースの利用を制限することなど、共同生活だからこそ慎重な対応が必要になります。
仕事や学校に行けず、外出も控え、共同スペースも使えず、居室に親子で長時間過ごしていると、負の相乗効果が起こります。子どもは外で遊べず、ゲームや動画視聴の時間が長くなり、きょうだい喧嘩も増えます。不満やイライラを母親にぶつけ、母親の気持ちも揺さぶられます。
そこで、施設の職員は、子どもに遊びや運動の機会を作り、母親には「自宅療養で子どもと一緒にいる時間は実は貴重ですね」と伝えるなどして苦労をねぎらったそうです。
利用者とのコミュニケーションの変化
感染症の影響で、職員と母子とのコミュニケーションも変わりました。感染予防のために、マスクを着用し、距離をとり、事務所の窓口ではビニールカーテン越しに話します。
マスクを着けていると母子の表情が見えず、母子の状態を把握しにくくなります。一方、職員の表情も母子に伝わらず、やり取りの中で誤解を与えてしまわないように気を付けているそうです。
感染拡大前は、姿を見かけたら声をかけて立ち話をしていましたが、そのような関わりが難しくなった分、以前よりも頻繁に内線で連絡を取ります。内線には、親子の体調の確認や、困りごとの把握など必要な連絡という意味に加えて、母子を孤立させない意味もあるとのことでした。
共同生活への影響
母子生活支援施設では利用者同士の支え合いも大切ですが、感染症により日常的な交流が難しくなりました。さらには利用者と職員が意見を交わす懇談会も中止され、年中行事も中止されました。利用者間の交流が減ると、それぞれの家庭が孤立して、それぞれ自分達だけで生活している雰囲気になる心配がありました。
そこで、年間行事の代わりに、感染対策を講じ、母子交流ができるお楽しみ会も企画したそうです。また、月1回、夕食にお弁当を提供しました。母親の負担を減らすことができ、母子が一緒に外食気分を楽しめたそうです。
まとめ
新型コロナウィルス感染症は、ひとり親家庭の収入が減るだけでなく、親子の関係がギクシャクしたり、周囲の人との関係が希薄になったり、関係機関の支援が届きにくくなったり、確かに複合的に影響を与えていました。
しかし、母子生活支援施設では、親子や、周囲の仲間、関係機関とのつながりを職員が媒介し、さらに新しい形でのつながり方を工夫しています。このように作られる多層的なつながりに支えられて、入所している母親と子どもたちは、厳しい状況を乗り越えてきています。
逆に、施設職員の媒介がなく、周囲とのつながりが得られずに孤立していると、感染症の影響がもっと大きく生活を揺るがすことになるのでしょう。ひとり親家庭を地域で支える仕組みの必要性も感じさせられるお話でした。
災害支援委員会 加藤 純(ルーテル学院大学:2022年7月)