Japan Association Family Therapy

News Letter No.64 (2008/05/12)

「第25回大会へのお誘い」

第25回大会長 田村 毅
(東京学芸大学)

家族療法の理論と臨床も、この25年間に大きく進化しました。「マスターセラピスト」は影をひそめ、新しい理論体系の構築より、各論としての実践が発展してきました。グローバルな理論や規範よりも、よりローカルな物語を尊重するという流れは、社会構成主義の考え方に合致しています。今回のテーマは、「人、家族、そして文化」としました。新たな視点から「文化」という文脈について考えてみたいと思います。

東京での開催ということで多くの人が集まり、家族研究・家族療法のすそ野を広げたいと思います。家族療法は、それを体系的に学び、家族療法家としてのアイデンティティを持つ人だけのものではありません。我々は、心理臨床という枠組みばかりでなく、医療、教育、福祉、司法など、さまざまな分野で家族と関わります。たとえば、乳幼児期の子育て支援と児童虐待などの家族危機。学校現場では軽度発達障害や不登校、そして困難な保護者との対応。思春期・青年期のひきこもり、ニートや非行問題、逸脱行動など。新たな家庭創造としての結婚とそれに伴う問題として不妊・妊娠・出産、夫婦間暴力、離婚など。中年期に増加している自殺問題。人生後期における加齢と身体・精神疾患、高齢者へのケアなど枚挙にいとまがありません。これらの各現場で活動する家族支援者たちも、家族療法的な視点を持つことによって、新たな活力を期待できます。初日の大会ワークショップでは、これらに関連した多くのテーマを設けました。

一般演題では、学会員の多様な活動に対応するべく、いくつかの新しい発表形式を設けました。ポスター発表は多くの聴衆の面前に向かうという心理的負担がなく、関心を持つ参加者との個別の対話を持つことができます。若い研究者・臨床家にも活用していただきたいと思います。また、時間にゆとりをもった発表の機会として、従来からの「公開スーパービジョン(90分)」と「自主シンポジウム(120分)」に加え、「臨床報告(60分)」という枠を新たに設けました。

会場となる国立オリンピック記念青少年総合センターは、1964年東京オリンピックの選手村として開設され、その後、近代的な建物に全館リニューアルされました。都心にありながら、代々木公園の緑に囲まれ、心が憩う場所です。みなさまと6月にお目にかかれることを楽しみにしています。

「訃報 White M.」

突然の訃報に触れ、一時呆然としてしまいました。まだ50代の現役臨床家であるはずのホワイトが・・・。

この数年、マスターセラピストといわれてきた方々の訃報を耳にすることが増えたように思います。当たり前のことではありますが、Family Therapyの世界が歴史を持つものとなってきていることに思いが至ってしまいます。

今号では、そのWhite M.に所縁の先生方、お二人に「訃報の報告ではない原稿」をお願いさせていただきました。

「マイケル・ホワイトとの出会い」

土岐篤史
(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター こころの診療科)

思わぬ訃報を受け取る。思考も感情もしばし麻痺する・・・振り返れば、小森康永先生に誘われてホワイトの著作の翻訳に関わったのは、もう10年以上も前のことだ。哀悼の意を込めて、ホワイトとの個人的な出会いのことを書き記してみたい。

・・・2000年9月、僕はホワイトの講演を含むナラティヴのカンファレンスに参加するためボストンに出かけた。翌朝、時差ボケの頭で朝食に向かった先には、ホワイトと縁の深いデヴィッド・デンボロウ!そして、振り返るとホワイト夫妻が立っていた!ああ、そうか、昨日ディレクターから迎えに来ると言われたのは、同宿だったせいか。それならそうと言ってくれればいいのに・・・

思わぬ出会いに驚いたが、おかげでその日はホワイト一行のご相伴に預かることができた。デヴィッドは移動中も陽気で楽しく、シェリルは僕に日本のことを尋ねてくれた。ホワイトは終始温厚で、僕がボストンに来た理由に関心を寄せてくれた。そして、「治療的会話」と題した講演の後、ホワイトはわざわざ僕のために時間を割いてくれたのだった。

僕は外在化に関する質問をした。ホワイトは、ネガティヴなアイデンティティという疑いようのなくなってしまった『真実』を外在化の対象とするのだと語った。『真実』はいつでも単純に『敵』として外在化されるわけではなく、むしろ、その検討過程において治療的言語が生み出されていく。仮想敵への対抗ストーリー作りが外在化過程の本質ではない・・・そう理解できれば、その当時の僕には十分だった。別れ際の最後の言葉まで、僕はホワイトの誠意と品位に満ちた態度を含めて記憶している。

59歳という早すぎる死。本当に残念だ。困難や試練に向き合う当事者を支持し続けたホワイトの治療実践が広く受け継がれていくことを願って止まない。

「マイケルへ感謝を込めて」

奥野 光
(二松学舎大学学生相談室)

今年は、マイケルがダルウィッチ・センターを去り、アデレード・ナラティヴ・セラピー・センターをスタートさせた、記念すべき年になるはずだったのです。もっともっと彼の仕事やアイディアを伝え続けてほしかったのに。残念でなりません。

エヴァンストン・ファミリー・セラピー・センターのJill FreedmanとGene Combは、彼や彼のセラピーのことを「エキサイティング」だと言いました。そういう彼の姿はもうありません。喪失を感じながら、今私は、彼が、私のセラピストとしての人生にどれだけ多くをもたらしたのかということに思いをめぐらせています。例えば、わくわくするセラピー。相談に来る人が、私のもつ信念や価値の壁を越えさせてくれたり、これまでほとんど無視していた自分の側面と関わる機会をくれたりして、私の人生に影響を与えてくれるという経験。相談に来た人をないがしろにしないカンファレンスの形を考えたりして、力の差を認めて気を配る取り組み等々。彼の影響は、セラピーに限りません。夜、目をこすりながら遊びに熱中する2才の娘のところへは、シヌピさん(おそらくsleepyのこと)がぴょんぴょん跳ねてやってきて、眠りに誘ってくれます。寝かせるのがうますぎて時々私まで眠ってしまうのが難点ですが、シヌピさんのストーリー作りに関わることは、私にとって特別な楽しみです。

マイケルがもたらしてくれたことに、私はとても感謝しています。きっと世界中の多くのセラピストが、私のこの経験にリフレクトしてくれると思いますし、そういった人たちの人生との結びつきを感じられることも、彼からの贈り物です。

私にマイケルとの少し特別な関係があるとしたら、それは翻訳を通じてです。翻訳は、著者への不思議な親近感をわかせるもののように思います。ちょうどこれから、2007年にNortonから出版された”Maps of Narrative Practice”を、小森先生と一緒に翻訳させていただきます。マイケルと彼のアイディアが、これからも生き生きとしてくれますように。ありがとうマイケル。そしてこれからもどうぞよろしく。

「編集後記」

委員会からのお詫び

昨年度、広報担当を引き継ぎましたが、会員の皆さまにお詫びしなければならないことが生じてしまいました。年度事業計画として、皆さまにお届けすべきこのニュースレターの発行が遅れ、昨年度中に2回しか発行できないという事態に至ってしまいました。今号は、本来3月中に発行予定であったにもかかわらず、昨年度の秋季号の発行がHP担当者との疎通の悪さから発行が遅れ、1月中頃になってしまったこともあって、本号の発刊が遅れてしまった次第です。心よりお詫び申し上げます。

今年度には、できるだけ年間4号の発行を目指し、またこれまで以上に学会HPの更新を行いたいと考えておりますので、なにとぞご理解いただければと存じます。(広報委員長 吉川悟)

PAGETOP
Copyright © 日本家族研究・家族療法学会 All Rights Reserved.